July 01, 2010

Henri Cartier-Bresson


 ファインダーを覗いて被写体を切り取り、今まさにシャッターを押し込む時。誰もが「決定的瞬間」を狙ってカメラを構えているのだと思います。それは、凄惨な事故現場や躍動感に満ちたスポーツ写真ばかりではありません。ありふれた日常の何気ない場面も、とらえ方次第では決定的瞬間になると思うのです。


 アンリ・カルティエ=ブレッソン。20世紀を代表するフランス人写真家である彼は、35mmのライカを手にした1930年代から活動を本格的に開始。鋭い洞察力でありふれた日常の一コマを印象的に撮り続け、そのタイトル通り「決定的瞬間」を集めた写真集が代表作となりました。マグナム・フォトに参加し、雑誌ライフでも写真を発表。インドやインドネシアの独立、スターリン死後のソ連など、激動の世界を映したルポタージュを数多く残しています。


 この春、MoMAで彼の回顧展が開かれています。初期の作品からジャーナリズム写真、ポートレートまで約300点を集めた展示作品の中でも、トリミング疑惑で有名なサン・ラザール駅裏の写真は必見。足下を濡らさないよう、道を急ぐ男性のかかとが水面にふれる寸前の「瞬間」をとらえています。ありふれた場面だけれど、物語のような楽しさとユーモアにあふれた秀作です。


 コンセプチュアルでサイズの大きいアート写真が多い昨今ですが、目の高さに、ほどよいサイズのモノクロ作品に出会うと、写真の原点に回帰する気がします。カメラを初めて手にした誰もが狙う、決定的瞬間。ブレッソンの作品を見るたびに、写真を始めた頃の感動が思い出されるのです。