
ここニューヨークでも、日本のそれと同じように、秋はとっても気持ちのよい季節。カメラを片手に街を歩けば、おだやかな陽光と空気が優しくもてなしてくれる。そんな「写真日和」の晴れた午後、私はコンパクトカメラを携え、地下鉄の駅に向かっていました。せわしなく人が行き交う出入口付近、地下へと降りる階段にさしかかると、人の流れに抗うかのように何もせず、ただ立っているだけの黒人男性が目に留まりました。(彼は何をしているのだろう?)階段の途中で踵を返し、彼の足下に見えたのは木製の四角い箱。ピーンときた私は思わずたずねました。「ピンホールカメラですね?」
日本では「針穴写真」とも呼ばれるピンホールカメラ。レンズではなく、暗い箱にあけた針穴を通して景色を映し込み、画像を定着させる仕組みです。ラテン語で暗い部屋を意味する「カメラ・オブスクラ」の原理と同じく、カメラの原点ですよね。技術を追い求めデジタル化が進むと、一方でアナログへ回帰する人が現れるように、デジタルカメラの普及に伴い、昔ながらのカメラを楽しむ人が近年増えてきたように感じます。
階段を昇り降りする人たちを撮っていた黒人男性は、写真学校のアシスタント講師。時間を見つけてはピンホールカメラで作品を撮り続け、ウェブサイトの写真サークルで発表しているそうです。そういえば私も、以前に印画紙の箱でピンホールカメラを作ったことを思い出しました。あれも確か秋のこと。カメラの原理におどろき、感動したのを覚えています。
彼のひたむきで楽しげな表情とおだやかな秋の陽気が、私の記憶を呼び覚ましたのでしょうね。