May 01, 2011

ArtBridge


 街のすみずみにまでアートが息づくニューヨーク。数多あるギャラリーや美術館はもちろん、地下鉄の駅へ潜ると壁一面に描かれたモザイク画が目に入り、公園にはベンチに座る人物の彫刻や、イサム・ノグチの作品などもひっそりと佇んでいたりする。路上では似顔絵を描いて商売にする画家を発見。陽気なパフォーマンスを繰り広げるアーティストもいました。キース・ヘリングで有名なグラフィディのように、落書きですら認められ輝きを放つ壁面のアートは、芸術志向の高いニューヨークならではの光景でしょう。


 言ってみれば、どんなものでもアートになり得る可能性を秘めているのでしょう。ニューヨークで始まった「アートブリッジ」という試みもその例に漏れず、街のそこかしこで騒音を放つ建築現場に着目したプロジェクトです。その舵取り役を務めるロドニー・ドーソが言うには「パッと閃いたんだ。足場の羽目板は、まさにキャンバスだってね」このプロジェクトは彼を中心に進められ、建築現場の足場に使われる「羽目板」をキャンバスに若手アーティストたちが作品を描き、公共のアートとして街ゆく人の目を惹いているのです。


 作品を見ると、イラストレーションや写真、現代美術にみられる複合アートなど実に多彩。若手のアーティストにとって、群衆の目につく公共の場に作品を発表できるのは腕を磨く絶好の機会です。広告ポスターが単調に並ぶなか、建築現場をアートに魅せる斬新な発想がニューヨーカーにも好評のようです。街の散策がより楽しくなるアートブリッジの試み。ドーソの閃きが街全体をパッと明るく照らしています。

April 01, 2011

New Photography 2010


 毎年恒例、MoMAで開かれる「ニュー・フォトグラフィー」は、その年に話題をさらった若手作家の作品が一堂に会する写真の祭典。昨年はどのような作品が人の目に留まり、注目を集めたのでしょうか。展示期間中に私もMoMAを訪れて2010年を総括してみました。

 選ばれた30~40代男女4人の作品は、映画や雑誌、広告写真を意識しているのが共通項。どこかで目にしたような大衆受けの視点に加え、玄人をうならせる斬新さもあり、バランスに優れたアプローチが秀逸でした。

 唯一の40代、ロー・エスリッジは「遅かれ早かれ雑誌に載せる作品ばかり」と語るように、常にメディアを意識していたのか、ちょっと気になる工夫を写真に採り入れていました。たとえば果物の静物画のような写真。よく見るとカビが生えている!原作をブラッシュアップする技とセンスが抜群でした。もう一人の男性、エラド・ラッスリーの作品を見ると、不確かなものに想像を掻き立てられます。「どこかしっくりこない戸惑いに興味を惹かれるんだ」と二重露光やピンボケ、ネガを数枚重ねたプリント技法を駆使し、雑誌のサイズに仕上げています。

 残る2人は写真女史。映画監督ヒッチコックらに影響を受け、独学で写真を学んだという79年生まれのアレックス・プラジャー。まさに映画のスチール・フォトのようにドラマチックな写真に仕上げています。75年生まれのアマンダ・ロスホは芸術家の母と広告写真家の父のもとで育ったそうです。両親の感性を受け継ぎながらも、他の3人と同じく、独自の新しい写真観が強く感じられました。

March 01, 2011

Hiroshi Sugimoto

 「写真とはタイムマシーンである。記憶と時間を絵にして保存する一つの方法なのだ」とは何とも夢と含蓄のあるお言葉。NYを拠点に活動する日本人写真家、杉本博司さんの作品作りには、時の流れや時間軸を中心に据えた、独自のアイデアが込められています。代表作「ジオラマ」シリーズをはじめ、「海景」「劇場」といったコンセプチュアルな作品の数々。モノクロームで落ち着きのある作風も相まって、米国で「禅マスター」と評されるほど写真哲学に満ち溢れた杉本さんの作品展が、昨秋、チェルシーで開かれました。

 ギャラリーに入ると、過去の名作が居並ぶ中、ひときわ目を引かれたのが壁一面を占拠する漆黒の宇宙空間。科学をアートした「ライトニング・フィールズ」という最新作は、杉本さんの飽くなき挑戦心が感じられる実験的な作品です。カメラを使わず、暗室で40万ボルトもの電流をフィルムに焼いて造り出した重みのある黒い宇宙、闇を切り裂く白い稲妻、そこから漏れる幾筋もの光り…  時間の概念すら存在しないはるか昔、地球誕生の瞬間に遭遇したようなエネルギッシュな世界観に圧倒されました。


 作品の観賞を終え、ギャラリーを出てこの界隈を改めて見渡してみる。もともとチェルシーはハドソンリバー沿いの倉庫街だっけ。往時の面影を残しつつ、現代アートの発信地に変貌したこの街のギャラリーで出逢った、杉本さんの最新作。いにしえの写真初期の手法を研究し尽くし、新たに生み出した発想と表現技法。時と時が紡がれて、今がある。「温故知新」その意味を再度思い返しながら、チェルシーの街を後にしました。

February 01, 2011

Pictures by Women


 一眼レフカメラにフェミニンな趣向と軽量性をとりいれた「女子カメラ」が日本で売れているそうですね。その流行りが海を越えNYに伝播したのか、女流写真家をとりあげた写真展がMoMAで開かれ、170年の写真史を辿りながら、彼女たちの力作が紹介されていました。


 写真の黎明期から、すでに女性が活躍していたのをご存知ですか?英国ビクトリア朝の肖像画写真を残したジュリア・マーガレット・カメロンは、娘からカメラを贈られ、写真を始めたのは48歳の頃。ピントがずれて荒削りな面もあったようですが、型にはまらない自由な描写は、今もなお多くのファンを魅了しています。

 マルセル・デュシャンらが活躍した20世紀初頭。マン・レイから写真を学んだベレニス・アボットと言えば、NY上空からマンハッタンの夜景を撮った写真が有名。ウジェーヌ・アジェのパリの街角写真を掘り起こしたことでも知られています。コンテンポラリーアート全盛期、女性アーティストが続々と進出してきた80年代に目を向けると、シンディー・シャーマンの名が挙げられます。映画の『スチール写真』で脚光を浴びた彼女は、様々な発想と技法でセルフポートレイトを撮り続けています。

 90年代ではオランダのリネケ・ダイクストラも見逃せません。今回の写真展では、ボスニアの一人の少女を被写体に、思春期を経て母親になるまでの11年を追いかけた11枚の写真が展示されていました。赤ん坊を抱きかかえ、カメラに向けた柔らかな表情。同性だからこそ、心を許せた瞬間かもしれませんね。この先、どんな女流写真家が歴史を作っていくのか、同じ女性として本当に楽しみです。

January 01, 2011

Polaroid Transfer


 アート志向の強いクリエイティブな人たちが集まるソーホーは、芸術色に彩られたNYきってのお洒落な街。澄まし顔で立ち並ぶ高級ブティックと雑多な芸術のカオスが混在し、路上では自作のジュエリーを売る人、Tシャツの絵描き職人もいれば、黒人がソウルを歌っている。高級店に用がなくても、飽きなく楽しめる刺激的な街でもあります。

 ある日のソーホー散策の道すがら、露店で蛇腹付きカメラを持った50歳ぐらいの男性が目に留まりました。何となしにお店を覗いて声を掛けると、店主は陽気なスペイン語訛りで「リカルド」と名乗り、晴れた日に目抜き通りに出店しているのだと気さくに応えてくれました。彼の自慢は「ポラロイド・トランスファー」と呼ばれる独特の写真技法。ネガとプリントを引き剥がすタイプのポラロイドフィルムで撮影後、ホルダーからフィルムを抜き出す。現像中にネガを水彩画用紙などに圧着し、画像を転写させればできあがり。処理中の気温・湿度によって色調が変わりますが、ちょっと荒れた感じで、色褪せたレトロな味わいのある雰囲気に仕上がります。

 リカルド氏は、人懐っこいラテン系のノリで街行く人のポートレイトを撮り、ポラロイド・トランスファーの実演販売をしているのだそうです。1枚$20、仕上がるまでに約5分。観光客にとっては旅の思い出。慌ただしいニューヨーカーにはホッと一息、束の間のブレイクタイム。陽気なリカルド氏の、笑い顔とお喋りに癒されながら。

 カメラを生業にする人は、当然ながらいつも自分が撮ってばかり。たまには素敵な写真を撮ってもらうのも良いですね。