March 01, 2011

Hiroshi Sugimoto

 「写真とはタイムマシーンである。記憶と時間を絵にして保存する一つの方法なのだ」とは何とも夢と含蓄のあるお言葉。NYを拠点に活動する日本人写真家、杉本博司さんの作品作りには、時の流れや時間軸を中心に据えた、独自のアイデアが込められています。代表作「ジオラマ」シリーズをはじめ、「海景」「劇場」といったコンセプチュアルな作品の数々。モノクロームで落ち着きのある作風も相まって、米国で「禅マスター」と評されるほど写真哲学に満ち溢れた杉本さんの作品展が、昨秋、チェルシーで開かれました。

 ギャラリーに入ると、過去の名作が居並ぶ中、ひときわ目を引かれたのが壁一面を占拠する漆黒の宇宙空間。科学をアートした「ライトニング・フィールズ」という最新作は、杉本さんの飽くなき挑戦心が感じられる実験的な作品です。カメラを使わず、暗室で40万ボルトもの電流をフィルムに焼いて造り出した重みのある黒い宇宙、闇を切り裂く白い稲妻、そこから漏れる幾筋もの光り…  時間の概念すら存在しないはるか昔、地球誕生の瞬間に遭遇したようなエネルギッシュな世界観に圧倒されました。


 作品の観賞を終え、ギャラリーを出てこの界隈を改めて見渡してみる。もともとチェルシーはハドソンリバー沿いの倉庫街だっけ。往時の面影を残しつつ、現代アートの発信地に変貌したこの街のギャラリーで出逢った、杉本さんの最新作。いにしえの写真初期の手法を研究し尽くし、新たに生み出した発想と表現技法。時と時が紡がれて、今がある。「温故知新」その意味を再度思い返しながら、チェルシーの街を後にしました。