
ゴッホの自画像などに自らが扮して撮影する「セルフポートレート」の巨匠、森村泰昌の講演会がコロンビア大学で開かれました。「何故、私は三島由紀夫のポーズをとるのか」と題され、美術の世界に入ったきっかけから現在の創作活動に至るまで、半生を振り返るように語っていました。
中学時代の夏休み、自由課題で水彩画を提出した時のこと。クラスメートの一人が油絵を描いてきました。自分の絵と比べ、ひときわ大人っぽく見えた西洋の画風。一目見て油絵に魅せられた泰昌少年は、その日を境に西洋美術への憧れを抱くようになり、高校に進学すると美術クラブに入部。卒業後は芸術大学の門をくぐり、美術家としての土台を築いてゆきます。そう聞くと何の迷いもないように思える泰昌青年ですが、ひとつの疑問が頭から離れず、自問自答を繰り返していました。「日本で生まれ育ったのに、なぜ西洋美術の影響を強く受けるのだろうか?」
戦後の高度成長期。欧米に追いつけ追い越せの世の中は、美術界も当然のごとく海外の影響が強く、彼のような疑問を持つ者は多くはなかったようです。西洋美術の影響について長年の思いを昇華させた彼は、和洋の美術をミックスさせて創作の幅を広げます。モチーフとする絵画の主題から時代背景までを念入りに調べ上げ、セルフポートレートとして表現していったのです。
近年の作品の中で、「三島事件」を自分に置き換え、バルコニーで芸術論を説く映像作品があります。時代背景を知り尽くした彼らしいアプローチ。和洋の垣根を超え、文化や芸術にふれる喜びや楽しさを、いつも与えてくれるのです。