
半世紀前のニューヨーク。ブティック街に変貌を遂げる前のソーホー地区をはじめ、マンハッタン各所のロフトには、ミュージシャンや作家などのアーティストたちが集い、その才能を育んでいました。水俣病を衝撃的に映したことで知られる写真家、ユージン・スミスもそのうちの一人。フォトジャーナリズムで有名なライフ誌の専属写真家を辞めた後、サブカルチャーが息づくロフトへと活動の拠点を移しました。
ロフトで彼を待っていたのは、ジャズ音楽の世界でした。日夜多くの奏者たちが音を奏で、ピアノを囲んでは始まるジャムセッション。チャールズ・ミンガスやビル・エヴァンス、セロニアス・モンクなどの大物も出入りしていたそうで、ミュージシャンの他にも、ロバート・フランクやダイアン・アーバスといった写真家たちもスミスの顔馴染み。彼はロフトに出入りする仲間たちを35mmのフィルムに撮り続け、実に40,000点もの写真を残しました。何事にもとらわれないロフトでの生活、自由奔放にシャッターを押し続けた熱狂ぶり。ライフ誌に代表される、ジャーナリスティックな写真のアプローチとは異なる作風がたいへん印象的です。
彼の残した写真は「ジャズ・ロフト・プロジェクト」と名付けられ、この春、作品の一部がニューヨーク市立図書館で展示されています。スミスの研究家であるサム・スティーブンソンが監修し、クノフ社より写真集も出版されました。展示会を訪ねると、スミスが自らプリントした写真もあり、埋もれていた「ジャズ」の作品が多くの人の目に触れるかと思うと、何だか嬉しい気持ちになります。