
ケーキを撮ることも芸術になりうる― そんな名言を残したのは米国を代表する写真家、アーヴィング・ペン。ありふれた光景を独特の切り口でとらえ、芸術へと昇華させた作品を数多く残しています。煙草の吸い殻、積みあげた冷凍食品、静物画のような果物…。アート志向の強かった彼の写真を見ると、他の作家とは似て非なる独創性が感じられます。
1917年生まれ。フィラデルフィアの美術大学で広告デザインを学び、ファッション雑誌にイラストが採用されたことを契機にペンのキャリアが始まりました。25歳でいったん仕事を辞めメキシコを旅した後、ヴォーグ誌のアシスタントに就いた頃から写真家としての才能が開花。茶色い革カバンやベージュの手袋、レモン、黄色い宝石といった雑多なものを並べ、撮影したテーブルの写真がヴォーグ誌1943年10月号で表紙を飾り、一躍脚光を浴びました。
冒頭の言葉通り、彼の写真に対する姿勢や情熱はファッション写真以外にスティル・ライフやポートレート写真等にも見られます。1950年に結婚した最愛の妻、モデルのリサ・フォンサグリーヴスと1992年に死別した後も、芸術への思いは冷めることなく、つい最近までヴォーグ誌での活動を続けていましたが、昨年10月7日、マンハッタンの自宅で息を引き取り、写真家としての生涯を終えました。
彼の作品は世界中の美術館でコレクションされ、その情熱は今も生き続けています。日常のありふれた対象を撮っても芸術の領域まで高める事ができる。次世代へのメッセージが込められているように思います。